青山ケミピ物語

FLY ME TO THE MOON - 1964 - Stereo by Astrud Gilberto

ここではmadam、噂のドクターズ系のエステで当時話題のケミカルピーリングを初体験！アンド、ビタミンＣ誘導体のイオン導入でニキビもシワもタルミもすべて即刻解決の夢の治療だというけれど。。。。*旧館からの転載です. 2000年当時、新しい美容法として、ケミピは結構ブームでした.

プロローグ

「あと何段。。。。。?」

　madamの息が切なく途切れ、子供の頃テレビで見かけた、白装束の巡礼者の姿を我が身に重ねる。

　薄汚れたコンクリートの落書きと雨じみが積年のこの街の歴史を刻む。ようやくかすかにこぼれてきた外界の明かり。　5月の初夏の青山はフレッシュグリーンの若葉に彩られ、さぞかし小粋に着飾っていることだろう。（表向きは）

　今日は1ヶ月ほど前に予約した青山のクリニック＆エステで初めてケミピ体験
。madamにとってもフレッシュなSHABADAへの挑戦の日でもある。

しかし、古い地下鉄（銀座線）の駅ってなんて。。。！
（エスカレーターがない！！）

　普段まったく公共の交通手段を使わないmadamにとって、地下鉄で移動すること自体が既に厳しい修行の始まりであった。しかも街は無秩序に膨張を続け、車のアクセスはきわめて困難。
お気楽な若い頃とちがって次第に足が遠のいてしまった街なのだが、なんと今日行く新設クリニック＆エステは、その青山のとあるビルの４Fにあるのだ。

『シミニニキビニタルミニアカラ！！』

　開口一番、ドクターは早口で、公案禅のような呪文を投げかけた！

「はァ〜 ？」

虚をつかれたmadamを一喝し、「モト冬樹」似のドクターは自信たっぷりに続ける。

「スベテカイケツスル！」

「....シミと、ニキビと、タルミと、赤ら、.....！」

　madamはやっと診察前に自己申告したアンケート、お肌の”気になる項チェック”を思い出した。

「、、スベテカイケツ、、」→「すべて解決！！！」
（変換成功！）

　これぞ目からうろこの一転語！
その場で即時成立する、師弟の信頼関係であった。

〜シミも色ムラもない、ハリのあるプルプルお肌〜♪

今やmadamは、忘却の河に肉体と年齢を投じ、彼岸へ旅する永遠の20代。

「最近雑誌の取材でいそがしくてェー」

「アラ、センセイ、
オヤサシクミエルカラァ〜、
　ジョセイノツヨイミカタデスモノネ〜♪」

　すかさずmadamも持ち前の如才のなさで応答！冬樹はテレながらも少し広めの額を拭いながら、今日取材を受けた雑誌数をmadamに誇らし気に語るのであった。

　"信頼"と"恋"は限りなく近しく、師弟は突如、ひと組の男女へと、たやすく変化する。

ドクター冬樹は耳元で囁く。

「ホラ、コンナニナレルンダヨ〜ォォォ　！」

　お肌の仕組みと治療法を描いたヘタクソな絵のコピーを手に、クランケの治療による、before / after　スライドを見せる 。くどかれ上手の madam の瞳もうるみはじめ、地下鉄の階段の苦労も忘れ、夢は欲望で増幅され、俄かに現実味を帯びてくる。

「永遠の20代。。。ツヤツヤ　シットリ　プリプリ〜」

" 恋 "と" 錯角 "も限りなく同意。

　madamは冬樹に導かれるまま、スペシャルなるエステコースの予約を入れたのであった。

キッカケ

　そもそも出会いの発端は１通のDM。
にきびが気になり、皮膚科にでも行こうかなどと思っていた頃、丁度試しに使っていたＤｒ's系のコスメメーカーから、エステを備えた新設のクリニックの案内状が届いたのだ。

「皮膚科のくせにエステも。。。。。？」

　そこには普通のエステコースとは明らかに違う文明の器機を駆使し、また、医師免許ならでは可能の、最近話題のケミピなる施術も紹介されていた。
　madamもこれには全く関心がないわけでもなかったが、美容整形も含め薬剤等を用いたものには、なんとなく直感的に

ー邪道、反則ー

ーという感を抱いていたのである。

　しかもいきつけのエステはとりあえずあったしィ〜。。。。
しかし、実はmadam なつかしの10代　栄光の20代、そして円熟の30代　.........と、とにかく、生まれてこのかた皮膚科にはとんと縁がなく安穏と過ごしてきたのだが、そのころ1年くらいの間、原因不明の突発性ニキビに悩まされていたのだ。

「にきび程度で皮膚科なんてー」

　ためらいと、うしろめたさを抱きながらも、ついでに久しぶりにアオブラ（！）でもしようと思ったのが、そもそも失楽園のプロローグ。。。

白とネィビーブルーを基調にしたwaiting room

　真っ赤な一人がけソファに若い女の子が2.3人　ポンポンと海に浮かぶ島を連想させる。

　なんでもエーゲか地中海をイメージして、イタリー辺りから取り寄せたそうな。失楽園の密会の場としては、インビさの欠片も感じさせないのも、冬樹のニクイこだわり。

　しかしこのビル、アクセスが便利な反面、器そのものがひと昔の仕様である。六本木や渋谷の、かってのディスコかラブホテルかといった、従業員向けのような味気ないエレベーターや階段スペースを備える。

　仕方あるまい...
楽園に通じるはいつだってイバラの小径サ。

今どきの都心のマンションだっても少し広い廊下ヨォ〜ーというくらいの小径を通って、2畳ほどの個室に通され脱衣。。。
狭いながら天井には星空を演出した室内。寝ながらプラネタリウムの星を眺められるというワケだ。

「。。。。冬樹ったら。。。。」　

思わず口角をゆるめたmadamは、手を伸ばしたすきに、低い星空の天幕が落ちてこないよう、細心の注意を払って、背中のファスナーをおろしていった。。。。

　ところでスペシャルとは、こちらでofferしている、ケアのほとんどが含まれているらしい。
メインは当時流行りの乳酸でのケミピで、その他ビタミンCのイオン導入による美白、電気のグローブでのリフティングの３セットで『シミニニキビニタルミニアカラ』に対抗する。

　ドクター冬樹の診断でmadamは乳酸3％から始めることになる。

　当日は冬樹との逢瀬はエステの後、手前のカウンセリングルームにて、担当のエステシャンから簡単な説明を受け、いざ本番をむかえたのだが。。。

STEP 1

　軽いクレンジングの後、たっぷりVC溶液を含ませた何重かのガーゼを、死人かミイラのように顔にあてたと思ったら 、小さな電極を握らされ、ローラーを顔に当てイオン導入。ひんやりとして気持ちい〜い。　
昔、故淡谷のり子大先生が宣伝していた若返り美顔器ゲルマニウムローラーと形状が似ている。

（たぶんmadamの記憶にある美顔モデルタレントの中で最高齢、今だったら”イミディーン加藤たき”のようなものか）

　しかし、ガーゼでよかった。
これが目の細かいシーツのような木綿だったら、永久に彼岸の住民だ。（息ができなくて。。。）ちなみにここでは、治療薬の一貫として、6％VC誘導体水溶液を出してくれる。　市販の美白VCものは薬事法で上限が1％、医薬部外品でも3％が限度と決まっているそうだ。さすが、医師の特権、おまけにイオン導入。

。。。。。フッ、フッ、フッ　。。。

　星空に、不敵かつ大胆な笑みの冬樹の顔がオーバーラップ！
邪道だの反則だの、モハヤmadamは羽をもぎ取られた駄天使であった。

STEP 2

　やおら冬樹の使者でもあるエステシャンは、いびつなキッチンミトンを両手に、madamの顔面で突然、福笑いを興じ始める。頬の筋肉は細かく痙攣し、パーツが同時に上部へ上部へと、平面移動を始める。

　いわば、ベクター系グラフィックソフトでアンカーポイントを動かす行為、といえば、わかってくださる方もいるだろうか？

しかし、これはかなりの熟練を要するテクニックだ。

　さんざん重力の命ずるまま、定位置で落ち着いている目鼻口頬を、左右対象に引き上げるのはホントにむずかしかろ。

ムンクの「叫び」か、モディリアニの「哀しみの女」か、いまやmadamは

『 顔面金縛りの女 ! 』

STEP 3

　試しにピーリング溶液を額に、筆のようなハケで塗ってみる。
特別刺激も感じなかったので、いざメインのケミピへと、ステージチェンジ。ケミピ。。。。ケミカルピーリング。。。
（化学的療法皮むき）

　一応、この施術を受けるために、それなりの知識は貯えてきたつもりだった。皮剥ぎといえばアメリカ開拓史を思い起こすが、そこまで乱暴なものではもちろんない。

　お肌の表面を薬剤で溶かして、お肌のデコボコや溝（シワ）を整地するのだ。しかし中には、ブルーピーリングといって2週間以上入山し、世俗と断絶してまでの荒ワザを敢行するやり方もあるらしい。

　若返りの秘法は悲しいまでにソーゼツ。。。（涙）

　冬樹の使者は自分はいつも30％でケミピしていると言っていたが、、、、（30％！）

本番

　だんだん顔が火照ってくる。
中和液を塗られながらも、苦渋の相を呈するmadamに使者は、うちわを扇ぎながら、呪文を風に託す。

。。。。。ツヤツヤ　シットリ　プリプリ。。。。。

ツヤツヤ　シットリ　プリプリ。。。。。

　忘却の河に、一枚また一枚と古い衣を脱ぎ捨てながら、過去へと流れを遡るmadam。目指すは向こう岸、永遠の20代。　

しかしこの河、思ったより流れが早い！おっとっと深みもあるぞ！

　脳裏に甦るは、過去のスクリーン。
円熟の30代　栄光の20代　懐かしの10代　...........

　彼方に在るのは永遠のヴァンパネラの住処か？

　頬のあたりが特に火照る　しまった！

　藻に足を取られた！
呪文は多重奏をなし頭の中を駆け巡る。

。。。ヅヤヅヤ　ジットリ　ブリブリ。。。

ヅヤヅヤジットリブ。。。

　し、しかし、火照りの絶頂と共にゾンビも復活。。。！？！

　オォ、ドクターズ系エステ　！
なんという、熾烈で、禁断の 、、、、

皮膚新生のイニシエーション！

　およそmadamが初めて耳にするー

PHANTOM 作 OPERA！！！!

(ミュージカル『オペラ座の怪人』で怪人の作曲したスコア.....よーするに、不協和音ッてコト？！）

　あまりもの心地よさに大口あけて眠りこんでしまう、あ・の、サラ・ブライトマンが奏でる、春の日溜まりの甘美なメロディとは。。。（怪人にみそめられ、栄光とひきかえに魂を売り渡した新進のオペラ歌手クリスティーナ）

　あまりにも、、、、あまりにも、、、、、、

アアアアア 。。。。。。！！！

（忘却の河で溺死寸前のmadam)

　支払いを済ませようとレジへと向かう。今日はトライアル券が有効なので半額の1万数千円。ここのレジはクリニックと共通なので、レジの使者たちにあまり接客業の自覚はないようですな。

　冬樹との面談を待っていると、おもむろにひとりの女性と密室（診察室）から親し気な冬樹の姿。何やらハイドロキノン（マイケルジャクソンが美白に使ったというけっこう強烈な薬剤、副作用もあるらしい）の処方を説明してる。

　 続いてやはり密室より、かなりにきびに悩んでいそうなアカラな女性が冬樹に導かれ、金縛りと皮剥ぎの予約をいれている

「。。さん、どうぞ!」

　madamが呼ばれやっと冬樹との待ちに待った再会。。。

エピローグ

　過ぎた日々は、晩秋の落ち葉のぬくもりか。。。。
モノクロ写真の中の、ポーズをつけた、懐かしの冬樹の姿に目が停まる。

シャイな笑みと秋風に、額の辺りもほんの少しメランコリック。。。

　現在では冬樹とは、madamの定期購読誌の、美容コラム欄だけでの付き合いとなり、生還したmadamは、すっかりおだやかな日常を取り戻していた。

　あの日、数々の儀式の果てに寸前で救助され、冬樹との再会を果たしたmadamは呆気に取られた。

「どうだった？たいしたことなかったでしょ？
ジャ、次の予約取っといてね！」

　ネギライも、イタワリもなく、この間わずか20秒足らず。。。

「じゃ、次の患者さん！」

「。。。。。。。。。。。。。！！」

（ 絶句 ！ ！）

『オイ、コラ、ソコノ医者！
アタシャニキビ直シニココニキタンダヨ！

「シミニニキビニタルミニアカラ」？

変ナ、イチャモンツケルンジャナイヨ！　
ソリャ、チェック入レタノハ確カダヨ！
ヒッパッテツリアゲテ皮ハギシテヨ、
ソノウチコラーゲン注射ニボツリカァ？

薬モンハ麻薬、
一度ハマッタラ抜ケラレナクナルンダヨ！
歳取リャ誰ダッテ、
タルミヤシミノヒトツヤフタツ！
イージャンカ　ジョートーダヨ！
指摘サレナクテモワカッテンダヨ　！

ケドナ　オバサンハナァ〜、
ダテニ年季ハイッテルワケジャナインダゾ！
永遠ノ乙女　
若返リ夢ミルホドアホジャナイゾ！

CダカAダカ知ランガヨ、　
1ポン6000円　クリーム二ツデ7000円ダトォー？

ザケンジャナイヨ保険効ク薬ダシテクレヨ　
フツーノ皮膚科医ガ出ス薬！
テメェー医者ダロ　
取材サレタカラッテ、ハシャイデンジャナイヨ！

予約トルダケデ１ヶ月待チダゾォー！
ソンナヒマアッタラチャントシゴトシロヨ！
客カ患者カ、ハッキリシロヨ！

エステダッタラ他ニイクラデモアルンダヨー！』

（以上、madamの心理、現代口語直訳カタカナ変換）

　「これが一番効くのよね。。。。。」

　ねんどにティトリーオイルを一滴垂らし綿棒で丁寧に患部につける。
一晩たてば腫れはおさまる。madamはようやく独自のにきび対処法に辿りついた。

　河を渡りそこなったmadam 。。。
いや、誰を責める権利があるのだろウ。。。。

『　〜束の間の夢　永遠の20代〜　』

　それは今でも永遠の憧れ。
しかし、3％でさえ耐えられなかった我が身のもろさか、所詮、madamはSHABADA育ち、フッ。

行き届いたサービス　
優雅なインテリア　まどろむ時間
けだるくとろけそうな、
SHABADAなエステが大〜好き！！

( 地下鉄の階段も苦手だしィー。。。。。)

彼岸と此岸（シガン）は紙一重
いや、彼岸が此岸で、此岸が彼岸で。。。。。。

SEPTEMBER . 1999（完　AOYAMA篇）
旧館「エステ」コーナーより転載

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